2024年の大晦日。自宅から30分程で行ける観光地に一人ぶらぶらと遊びに行った。
観光地なので年末の旅行客でごった返していて、旅情を感じられるような光景ではなかったため早々に帰ろうとしていたところ、観光案内の看板に按摩の施術所が載っているのを偶然見かけた。「国家資格の按摩マッサージ指圧師による施術が受けられます」と書かれている。
私は按摩マッサージ指圧師の国家資格を持っているけれど名簿登録をしただけで、卒後仕事でこの資格を使っていない。職場は鍼灸しかしないので職場にも鍼師と灸師の免許の写ししか提出していない。色々考えて卒後すぐは鍼灸だけをする職場に入ったけど、でも私は本当は按摩師として仕事がしたい。学生の時は試験だなんだで按摩をしたり受けたりしていたけど、卒業してから一度も按摩を受けてない。必要が生じてオイルマッサージを少しやったくらいだ。
年末だし、疲れを癒すのと自分の勉強も兼ねて按摩師さんの施術を受けてみようかな。
そう思って飛び込みで施術所に行ってみた。予約をしていなかったけど施術を受けられることになった。
受付で、施術者によって施術の特徴が違うので按摩と指圧どっちを受けたいか訊ねられた。私は按摩を受けたいと思ったが、自分の仕事的には指圧を受けた方が勉強になるのではないかと思い始め悩んでしまい、結局按摩とも指圧ともどちらともつかぬ中途半端な返事をしてしまった。
通された部屋にはせんべい布団が敷いてあるだけである。そこで待っていると受付をしてくれたスタッフに伴われて盲の方が入ってきた。看板には特に記載がなかったが、盲の按摩師さんが在籍していたのだ。
盲の方は、目が見えない分指先や手の感覚が優れているという話をよく聞いていた。一度は盲の方の施術を受けてみたいとかねてより思っていたので、思わぬ機会である。
どんな症状で施術を受けたいか訊かれ、肩がガチガチで腰も痛いと伝えた所、それ以上特に何を訊かれるわけでもなく横向きになって施術が始まった。
自分が習った手順とは全く違う流れで施術が始まった。どんな施術になるのか分からず緊張したが、せっかくだから身を任せようと心に決めて施術を受けた。
色々聞きたいことが頭に去来したが、勉強モードになってリラックスして施術を受けられないのが専門学校時代からのジレンマだったので、免許持ちということは黙っていた。
横向きで、肩から頭部、腰、脚と施術を受けて反対側。最後はうつ伏せで背中の施術という流れだった。久々の叩打法に、按摩師さんだ〜!という気持ちになった。
どういう手技なのか分からない部分も多かったが、施術後信じられないくらい肩や頸周りの筋が緩んだ。私は体格や性格があわさって斜角筋がとにかく硬いのだが、それが信じられないくらい緩んだ。大袈裟でなく帰りに肩が軽過ぎて、背負っていたリュックの中身を施術所に忘れてきたのではないかと荷物を確認してしまうくらい改善した。しかもこの楽さが年末年始の間ずっと続いていた。自分の体の癖もあって少しずつ戻ってしまってきているけれど、この効果の持続具合は凄いと思う。
聞けば施術してくれた方はこの道33年。中途失明で、当時は目が悪くなったら按摩師になるしか仕事が無いという時代に資格を取った方ということだった。
キャリアの長さと、やはり盲人の手の実力があってこそなのか…と思いつつ、何がどうしてこんなに効果が出るのか気になるところ。
自分なりに感じたのは、筋の一つ一つを触っていたと思う。身体を面で揉むというよりは筋を触り分けて一つ一つを時間をかけてほぐしていたように感じた。全身を揉みほぐすリラクゼーションというよりは、硬くなった筋を一つずつ治療する、という感じだった。狭い範囲をずっと触ってるみたいな時間も結構あった。
あとは力いっぱいという感じではなかった。箇所によっては腕まで痺れたり(神経の走行が筋に圧迫されてるからそこを施術すればそうなるよなという痺れ)、そこ触ると本当に痛い…という感じだったけれど、痛くしてやろう、痛気持ちい感じにしてやろうという施術ではなかった。とにかくこの筋をほぐすにはここをこう触るしかないからこうします、みたいな施術だった。体重を乗せてるだけで腕の力は全然使ってないと言っていたので圧のかけ方もポイントだったのだと思う。
その結果が、この軽さであった。
施術者の方とはたまたま一緒に話せる話題があって、鍼灸按摩とは関係ない話でひとしきり盛り上がりつつ、和やかな時間であった。
身体の調子も良くなって、気持ちの良い年末年始が過ごせた。また行こうと思う。