家から歩いてすぐのところに銭湯がある。流行りの施設にあるような設備は一切無く、大きな浴槽が一つと洗い場だけがある無骨でシンプルな、正に「銭湯」である。
東京に引っ越してきた初日、まだガスが通っていなかったので一度だけ利用した。土地勘が無く夜道で暗かったのもありずいぶん遠く感じてしまいそれ以来行っていなかったのだが、昨日久しぶりに行ってみたらものすごく近かった。
訪問マッサージの仕事も少しずつ一人で任せてもらえることが増え、それに比例して一日の移動距離も増えてきた。移動は自転車なので通勤と合わせて毎日25kmくらいは自転車を漕いでいるのと、マッサージだけでなく身体介助もするため平日は一日中体を動かしている。疲れて動けないということは全く無いが、週末になるとやり切った解放感と合わせて体の疲れがドッと押し寄せてくるようになった。
昨晩ついにそれがピークに達し「ああっ!全身労わりたい!大きな湯船で体を伸ばして全身あったまりたい!」という欲望が噴出し、そうだ、あの銭湯に行ってみよう、ということになった。思い立ったのは夜も8時を過ぎた頃で、10時に閉まる銭湯は9時半には受付終了、というまぁまぁギリギリの時間であった。行くと決めたならグズグズしてはいられない。休日で特に何をしたわけでもなかったが疲れていて頭が働かず、とりあえず風呂で使いそうな物を適当にカバンに詰めて銭湯へ向かった。
銭湯に着くと近頃の燃料費の高騰のためか、3月に行った時は500円だった料金が550円になっていた。潰れるより値上げしても存続してくれたほうがいいので550円払った。
払ったところでタオルを持ってきていないことに気が付いた。入湯料の値上げは良いとしても、近所で安くくつろげるから来たのにここに来てタオルを有料で借りるのは憚られる…一旦取りに戻るか…?でも時間が…と思っていたらフェイスタオル1枚は無料で貸してくれると言われて有難くお借りすることにした。危ないところだった。
おぼろげな記憶で脱衣所に給水機があった気がして水を飲まずに行ったら記憶違いで水飲み場は無かった。ちょっと喉が渇いてるけどタオルも借りたしもうここまで来たら水など飲まずに入るしかないと意を決して浴室へ向かった。
浴室に入るとホームページにシャンプー・リンス・ボディソープ無料とあったのに何も無く、あれ?と思いながら持参したもので体と髪を洗った。シャンプーとコンディショナー、洗顔石鹸や泡立てタオルはしっかり持ってきていて、タオルは忘れたくせにそのことは棚に上げて「準備がしっかりできていてよかった」などと思いながら洗った。ボディソープは持っていなかったが、顔を洗えるなら体を洗っても同じだろうと考えて洗顔石鹸を泡立てて使った。汚れが落ちて浴槽に入れれば何でもいいのだ。
ちょっとした思い違いはあったものの無事に身を清めてついにお待ちかねの入浴である。ジェットバスも色んな種類の浴槽も無い、水風呂さえ無い、本当にただデカイだけの浴槽に、熱過ぎもせずぬるくもないちょうど良い温度のお湯がなみなみと満ちている。そこに全身ざぶんと浸かった。
(〜〜〜ッ!!!)
言葉にならないとはこのことである。文句無しに全身に染み渡るような心地だった。
ギリギリになったけど、タオルも忘れたけど、来てよかったナァ〜おいおい、ア〜極楽極楽、とオッサンみたいな感想を抱きながら湯に浸かり、遅い時間で湯船には自分一人だったのをいいことに肩を回したり背中を伸ばしたり脚を揉んだり好き放題にストレッチをし、だんだんのぼせてきたので最後は膝から下だけ足湯をして入浴を終えた。
ドライヤーは20円式で、私は髪が長いので微妙に時間が足りなかったが大体渇いたしこんなもんでいいかということにした。
流石に喉が渇いたし、風呂上がりは牛乳でも飲むかと思ったらなんとプレーンの牛乳は無かった。他の飲み物もちょっぴりだが高い。銭湯の売り上げに貢献できないのは申し訳ないが、これなら帰り道に近所で買って飲むかと思い、銭湯を辞してスーパーに行くことにした。
帰り際フロントの後ろを振り返ったら、そこに貸出用のシャンプーとリンスとボディソープが大量に積まれていた。靴箱の鍵を預けると1セット借りられるシステムということだった。早く湯に浸かりたい一心ですっかり見落としていた。
外に出たら、体が軽いことに気が付いた。全身の力がいい感じに抜けてなんとも気持ちが良い。まだ暑くもなく、乾き切らなかった髪に当たる夜風が心地良く、ハッピーな気分になった。すぐそばにあるスーパーで、普段あまり買わないマンゴーラッシーを買った。湯上がりで温まった体と抜群に仕上がった喉の渇きに冷たくて甘いラッシーは最高だった。ラッシーを飲みながらぶらぶらと歩いて家に帰ると、ドッと眠気が押し寄せて、急いで歯磨きをして横になったら朝までぐっすり眠れた。
5日間頑張り抜いた体と心に銭湯は最高の癒しと労わりになると知った夜。週末は金曜の居酒屋がルーティン化しつつあるけれど、ここに銭湯も加えよう、と思った。
次回は今回の反省を踏まえて、より快適に、より心地良く銭湯を楽しむために計画を立てて行こうと思う。