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日常の記録。

読書メモ『盲目的な恋と友情』

 

こちらの本、読み終わったので簡単に内容と感想をまとめておく。

 

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概要

この本には『恋』と『友情』という2つの中編小説が収録されている。

物語は、ある大学のオーケストラ部に在籍していた女子学生が、卒業後に結婚式を挙げる場面から始まる。

結婚式がまさに始まろうとしたところから話は大学時代に戻り、主人公がオーケストラ部である男性と恋に落ち、その恋が朽ち果てていくまでがこの作品の前半である(『恋』)。そして物語の後半は前半にも登場していた主人公の友人の一人の視点で、同じ物語が描かれる(『友情』)。

 

女子大生のありきたりな恋愛が描かれた小説かと思いきや、徐々に不穏さが立ち込めていき、次第にサスペンスの様相を呈してくる。

 

物語は2つの中編を読み通すことで完結する。

 

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感想

 

上に書いたように、最初は単純な恋愛小説に見えた。恋に落ちた主人公の心理は私には陳腐に思えたし、まぁ大学に通っていたらこのくらいの話はいくらでも転がってそうだな、という風に思えた。恋愛って他人が溺れている様子は冷ややかに見えても自分がするとロマンスなんだよねぇ…と思いながら読み進めていたら、1つ目の中編の終盤で不穏さが立ち込めてきた。この恋の終盤は、水分を失って朽ち果てて行くというより、融解壊死、腐敗、腐乱して行くように思えた。文章からも異臭が放たれているように感じた。

 

そして、前半の主人公の友人の一人によって語られる2つ目の中編は、不穏さに満ち溢れていた。

 

2つ目の中編には強い共感を覚えながら読んだ。外見によって引かれる見えない線、“私は自覚しているのだから、惨めにはなりたくない(p.142 l.1)”という思い。

 

彼女は賢く聡明だけど、それ故に、家族を始め周りの人々によって無自覚に引かれた線の意味を意識し過ぎてしまいそれに囚われた。結果として、自分の価値や評価を他者に委ね過ぎてしまった。外見の美醜より、そこが可哀想だった。周りの無自覚な無慈悲ささえなければ、とても魅力的な人になれたはずなのに。特に家庭環境に強い怒りを覚えた。それは私自身の経験もあってのことかもしれない。

 

人には誰にでも、表には出さない思い、その思いを作ってきた過去がある。過去に起きた出来事を反芻し、考えることを繰り返しただけ、それは強固にその人の思考や行動を支配する。その全てが明るいものではない。人と付き合う時そこを見落とすと、不幸が始まるのかもしれない、とラストシーンを読んでいて思った。

 

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著者の作品は初めて読んだけれど、文章の区切り方、言葉の選び方がすごく心地良く、とても楽しく読めた。何の気無しに手に取ったら、私が好きなミステリ小説を書く方ということで、他の作品も読んでみたくなった。文体や内容が自分にとって心地良い作品に出会うのは意外と難しいと感じていて、好きな作家の本を読み尽くすと途端に読書難民になるのだけれど、この作家さんはたくさん作品を書かれているから、これから長く楽しめそうで嬉しい。