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日常の記録。

【320】読了『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』

Twitterで現役医療従事者の方からオススメしてもらった本を読み終えたので、気持ちが熱いうちに感想を書く。

 

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読んだのは『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』ウェンディ・ムーア著、矢野真千子訳

 

あらすじを訳者あとがきから引用する。

 

「本書は後年に近代外科学の父と呼ばれ、ダーウィンの『種の起源』より七十年も前に進化論を見出していた鬼才博物学者、ジョン・ハンターの生涯を綴った伝記である。』

 

ジョン・ハンターは、まだ解剖や生理学に基づいた医療が行われていなかった(消毒の概念や麻酔もない!!)時代に、解剖をしまくって事実と観察に基づく医療の基礎を築き上げた医者である。

 

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伝記だが、小学校の図書館で読んだような「この人はこんな立派な人です。尊敬しましょう」みたいな良い子ちゃんテイストの本では全くなかった。なんとなく、デヴィッド・フィンチャーの映画を観ているような、ノンフィクションだけどフィクションのような、不思議な感覚に襲われる作品だった。

 

フィクションのように感じられるのは、ジョン・ハンターが生きた18Cのイギリスの常識や価値観、風俗が生き生きと(生々しく)描かれているからだと思う。

 

解剖学というものが存在しない時代、人の身体に刃物を入れることに対する宗教的タブー視、床屋外科医の存在、献体制度がなかった頃の墓場荒らしや死体の争奪戦、何にしても瀉血(血を抜くこと)が効果のある医療だと多くの人が信じていた世界…

 

科学が発達した今の時代から見ると「なぜそんなことを?」と思うようなことが当然のように行われる様子は、なんとなく不気味で鳥肌が立つ。

 

そんな時代に生まれながら、好奇心から世間の常識やタブーを乗り越えて、観察と推論、事実に基づく医療を追求したジョン・ハンターを見ているとハラハラドキドキしながらも、なんとなく爽快な気分になる。

 

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本の詳しい内容は到底私なんかが語り切れるものではないので他の人に譲るとして、自分の抱いた感想を。

 

この本を読んで一番強く印象に残ったことは「事実と観察に基づく推論や行動がいかに大切か」ということだった。

 

これから鍼灸の道に進もうと思う自分にとってこれがすごく大事になるんじゃないかと思った。(ていうか、今の仕事でも大事にしてることだから(三現主義というやつ)、これから他の仕事に就いても引き続き大事にしたい)。

 

あと、この一文が印象的だった。

「単に傷の手当てをし、型通りの手術を、それが最良の処置かどうかも考えずに繰り返すだけの外科医は、本当の外科医とはいえない」(第11章 電気魚の発電器官)

 

鍼灸治療はよく「患者さんに合わせたオーダーメイドの医療」と言われる。症状や体調に合わせて鍼やお灸を様々なパターンで組み合わせて、一人一人の患者さんに合わせて治療方法を提案できるからだ。

 

もちろん、肩こりにはコレ、婦人科系にはコレ、というような一定の型はあるけれど、それに基づきながらも患者さんの体調や気持ちに合わせて足したり引いたり出来るのが鍼灸治療の魅力の一つなのだ。

 

私は、ただ型にハマっただけの施術じゃなくて、そういう治療が出来る鍼灸師になりたい。

 

そのためには物凄い量の型を覚えて身につけてさらに付随する知識も身につけて組み合わせて考える練習をして…果てしなく長い訓練の日々を乗り越えていかなければならない。自分の思うような鍼灸師になれるのは10年先か20年先か30年先か、見通しは立たないけれど(一応60歳の時にそうなっていたいと思っているので25年計画ではいる)…

 

その何十年計画の中で、目指す道が分からなくなったり、諦めたくなった時に、さっき挙げた文章や、この本をまた読み返したいなと、そう思った。

 

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とは言ったものの。

医学的な話以外にも、ジョン・ハンターの人柄、多彩な交友関係、イギリスの風俗、18Cを生きる人たちの新発見への期待と興奮などなど、物凄く読み応えがある本だったので、別に落ち込んだり迷ったりしてなくても楽しむためにまたすぐ読むと思う。本当、もし医学に何の関心がなくても映画みたいで超面白いから!

 

あと、副作用でこんなコロナの最中なのにめちゃくちゃイギリスに行きたくなってしまったので、落ち着いたらまとまった休みでイギリスに行ってみよう。人生初のヨーロッパ旅行はイギリスだ!ハンテリアン博物館に行ってみたーい!